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トップページ > 活動史(21世紀) > 喜劇映画研究会 2003年 夢の森にて2003 上映作品解説
喜劇映画研究会 2003年

夢の森にて2003~生演奏&パフォーマンス付き上映会
上映作品解説

「チェス狂」 ШАХМАТНАЯ ГОРЯЧКА
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監督:フセウォロド・プドフキン、ニコライ・シュピコフスキー
出演:ウラジミール・フォーゲル、アンナ・ゼムツォワ
製作:ゴスキノ(国立中央写真映画企業)1925年ソビエト(現ロシア)作品
セッション・リーダー:三木黄太  
35mmプリント ロシア映画社所有

監督のフセウォロド・プドフキンは、クレショフ、エイゼンシュテイン、ドブジェンコと並ぶソビエト古典映画の四天王のひとり。本作のスグ後に発表の「母」(1926)や「聖ペテルブルグの最後」('27)「三つの邂逅」('48)で映画史に燦然と輝く"巨匠"。

監督2作目にあたる「チェス狂」は、どう血迷って制作に到ったのか?のドタバタ習作。ひょっとすると当時の世界的な短編コメディの流行に照準を合わせたのかもしれない。

師匠格のレフ・クレショフが発表した怪コメディ「ボルシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険」('24)では配役のひとりとしてプドフキンは登場、続く本作「チェス狂」でプドフキンは監督専任となるが、両作品ともに同時代の映画界を代表するアメリカのスーパースター=ハロルド・ロイドに倣ったキャラが主人公を務めている。この事からも、かなり一般ウケを狙って作ったと考えられる。本作はチェスのゲーム展開を彷彿させる緻密な構成を感じ取る事ができるが、その基本となるギャグ構成はやはりロイドの短編喜劇に倣っている。また、冒頭とオチに登場するチェス王者は1921~27年に実際のチェス世界チャンピオンだったホセ・ラウル・カパブランカであり、試合場面でも当時の1・2位タイトル保持者が顔を見せている。このあたりのゲスト起用もアメリカ映画の手法が色濃く反映されている。警官役では先輩格のボリス・バルネット(ソビエト映画界を代表する娯楽映画監督)が登場する等、記録フィルムとしても貴重な古典といえよう。

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左の紳士は当時の
世界チャンピオン・カパブランカ

 

 

 

 

「戦争ごっこ」 WILD PUPPIES
監修:ジョージ・マーシャル
出演:フォックス・キッド
製作:ウィリアム・フォックス=フォックス社
   1925年アメリカ作品
セッション・リーダー:高良久美子

1924年にスクリーン・デビューを果たすや、たちまち世界中のアイドルとなった"ちびっ子ギャング"。本作はその人気にあやかった、香港製18Kロレックス的パチモン映画!

宗家ちびっ子ギャングのアイデアは、大プロデューサーのハル・ローチがディズニー・アニメを見て思いついたとされ、当初は動物が主人公の児童向け映画と、子役を多用したコメディの両者で"アニマル・キッズ・コメディ・シリーズ"と銘打って発表していた。今回のニセモノちびっ子もタイトルにはソレらしく"アニマル・コメディ"なんてブランド名を冠している。今さらこんな作品を上映するのも当会くらいであろう・・・!?

当時、剽窃と模倣は大小さまざまな映画会社、監督によって多く作られていた。日本でも小津安二郎監督が大ファンだったようで(教員をしていた経験もあるからか?)、「突貫小僧」(1929)「生れてはみたけれど」(1932)といったオマージュ的作品がある。今回上映のパチモンと本家ちびっ子の違いは、ホンモノがアングロサクソンと黒人の中流家庭の低年齢層を主人公としているのに対して、多国籍の小学校高学年の子供を起用といったヒネリで徹底的なドタバタ喜劇を演じさせている。まぁ、アイドル予備軍的児童が家元ハル・ローチの全米オーディションで押さえられている事情もあろう。今回の作品はそんなウラ話を熟知しているものなのか、本家の助監督だったジョージ・マーシャルが監修(監督?)。マーシャルは後に西部劇やジェリー・ルイス喜劇で数々のスマッシュ・ヒットを飛す映画職人だが、本人も忘れて永眠している頃に東京でリバイバル!? プロデューサーは現在の20世紀フォックスの始祖ウィリアム・フォックス!こんな組み合わせでエピゴーネン制作なんて遠い昔だからありえたのかもしれない。因みに、戦前の日本では本物ニセモノどっちも"ちびっ子ギャング"として輸入されていた。白黒つかないモノクロ映画だ…。


「文化生活一週間」 ONE WEEK(別題:キートンのマイホーム)
監督:バスター・キートン、エディ・クライン
出演:バスター・キートン、シビル・シーリー
制作:ジョゼフ・M・スケンク
          =コミック・フィルム・コーポレーション
   メトロ・ピクチャーズ社 1920年アメリカ作品
セッション・リーダー:谷川賢作

今回の上映作品の中では最も古いが、誰もが最も新鮮に感じるであろう、20世紀の天才映画作家=キートンの最初期短編。何とコレ、監督第2作目の作品なのだ。

若さと勢いが漲るギャグ!当時の映画界ではカゲキで前衛的な手法と見られていたものの、本人にはまったくその自覚がなく、ひたすらアイデアのひとつとして演じていたらしい。この天衣無縫でコジャレたセンスにはゲージツ家の信奉者が多く、当時はジャン・コクトーや詩人のフェデリコ・ガルシア・ロルカ、映画監督ルイス・ブニュエル、美術家サルバドール・ダリ、そして萩原朔太郎なんかがハマりまくっていた。つい最近もイタリアの環境デザイナー、ジャンニ・コロンボが本作に傾注して、傾いた家の実物大オブジェを作った。小津安二郎監督の言葉「古くならないものが新しい」とは当にこんな映画を指しているのだろう。これぞスラップスティックの世界遺産!


「幸福」 СЧАСТЪЕ
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監督・脚本:アレクサンドル・メドヴェトキン
撮影:グレープ・トロヤンスキー
出演:ピョートル・ジノヴィエフ、エレ-ナ・エゴロワ
製作:ソユエイキノ(映画列車)1934年ソビエト(ロシア)作品
弁士:知久寿焼 
台本:藤本ヨシカズ 
セッション・リーダー:谷川賢作
35mmプリント アテネ・フランセ文化センター所有

監督のアレクサンドル・メドヴェトキンと本作は、ソビエト映画史の中からもその存在自体が永い年月忘れら去られていた。この稀有な古典が発掘されたきっかけは、フランスの映像詩人クリス・マルケルによるオマージュ「アレクサンドルの墓」(1993)によって描かれたメドヴェトキン監督の実像が、各国の映画祭で相当なインパクトを与えた事からである。

メドヴェトキン監督はスターリン政権下のソビエトで文化啓蒙の責務を担い、共和国内を網羅する鉄道利用に着目、客車を改造して撮影機材、現像所、上映設備を整えた「映画列車」で地域の情報格差をなくす活動を行っていた人物。このプロパガンダ運動は1932年より開始され、本作はその記念すべき第1作であり、そしてソビエト最後のサイレント映画というイワクあり気な作品。

完成直後からクレムリンの検閲でかなりの修正が加えられたらしいが、現存するこのフィルムにも、ところどころに階級闘争やイデオロギーをギャグとしたアブナイ系の表現がちりばめられている。クレショフ「ボルシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険」やプドフキン「チェス狂」が製作された当時はトルツキー存命中で表現の制約もまだヌルかったのだが、本作はかなりキケンなギャグが大胆にでてくる点で、世紀の大独裁者スターリンの時代背景を考慮すると信じられない完成度だ。また、ドイツ表現主義の影響も垣間見える不均衡な美術、ロシア領内で20世紀初頭に活躍していたであろうグロテスクな道化師たちの狂想劇等、ポッカリと抜け落ちていたソビエト映画史の一部を埋めるには余りあるナゾの情報量!当に古典映画のオーパーツ!祖国を追われたタルコフスキーも成仏できない内容だ!ペレストロイカを経て日本に輸入されたキテレツ喜劇では、ロゲオルギー・ダネリヤ監督の「不思議惑星キン・ザ・ザ」(1986)もロシア人とスラブ人、少数民族の確執や共産主義への疑問をケッタイなスペ-ス・ファンタジーで大笑いさせてくれた。が、「キン・ザ・ザ」は疲弊しつつあるソビエト経済の血清みたいな喜劇。この「幸福」はドイツ第三帝国のバルバロッサ作戦、東西冷戦、ペレストロイカを乗り越えて、タイトルそのものが我々にナゾかけをしてくるアレクサンドルの墓碑銘だ!