夢の森にて2005~生演奏&パフォーマンス付き上映会
上映作品解説
※当日のパンフレットの内容をそのまま引用しております。
今年も'醒めぬ夢 深い森'へようこそ!
お蔭様で13年目、正規公演13回目、関連イベントを含めて27回目の開催となりました。
これもひとえに皆様のご支援あってこそ!の嬉しいオハナシ、改めまして今回もご来場を有り難うございます。初めてご参加の方にも深く感謝致します。本年は前回大好評だったスーパースター石川浩司さんの再戦に加えまして、Aプログラムでは何と!アルティメット歌姫・おおたか静流さんが石川浩司さんと前代未聞のダブル弁士に挑みます。トリ年ならではの企画、飛ぶ鳥を落とす勢いの最強ミュージシャン軍団が古典と現代の時空を翔けめぐる「夢の森にて」、本年最初のインパクトを味わって下さい!
喜劇映画研究会 新野敏也
「臨時雇いの娘/復刻版」 The extra girl (アメリカ映画)
出演:メーベル・ノーマンド、ラルフ・グレイブス、
ジョージ・ニコルス
パテ・エクスチェンジ=
アソシエイティッド・エキシビターズ作品(1923年)
音楽監督:谷川賢作
弁士:おおたか静流、石川浩司、
台本作成:新野敏也
日本初公開は大正13年、以降、完全版が関東で公開されるのは70年ぶりとなる。
主演のメーベル・ノーマンド(1895?~1930)は映画界初のコメディエンヌ、そして伝説の大女優。かのチャップリン、ロスコー・アーバックル(バスター・キートンの師匠)の先輩として、映画黎明期に陽気な演技で世界中を魅了したアイドルであった。しかし人気も絶頂にさしかかった頃、二度にも渉る殺人事件の重要参考人として表舞台から抹殺され、人知れず世を去った悲劇的人物。
彼女が最も絶大な人気を博していた1922年、交際中の映画監督が何者かによって殺害され、メーベル自身も犯人としての嫌疑をかけられてしまった事が直接的な凋落の原因となった。本作は、世間がメーベルを映画界から追放しようという気運が高まる中で、喜劇の帝王(そしてメーベルを生涯慕った片思いの男性)マック・セネットが総力を結集し、彼女の再起を賭けて完成させたという背景がある。それ故に献身的なメーベルの演技が冴え渡る入魂の傑作。
2003年に上演され大ヒットとなったケラリーノ・サンドロヴィッチ作の演劇『SLAPSTICKS』では、このメーベル・ノーマンドを故・金久美子さんが熱演していた事でも大きな話題となった。
因みに『SLAPSTICKS』は1993年に初演され、その舞台を観たファン(当時は女子高生)が後に宝塚月組の座付き演出家となってミュージカル『スラップスティック』を完成させたという逸話もある。
いずれの戯曲の典拠ともなった当会刊行の書籍『サイレント・コメディ全史』の作者は両公演の開催まで何も知らなかったという悲劇的事件もある!? はてさて、色々な想いを込めて『サイレント・コメディ全史』の作者自身がこの『臨時雇いの娘』を完全復刻したのだが、大切にするあまり公開を忘れていた・・・!
今日は本作に纏わる悲しい事実関係を忘れて、皆さんも一緒に古典映画の情熱を再発見しましょう!
「ホテルマン」The bellhop(アメリカ映画)日本未公開
*邦題は昭和四年の初公開時のものです。
監督:ラリー・シモン、ノーマン・タウログ
出演:ラリー・シモン、ベイブ・ハーディ、
ヴァイタグラフ作品(1922年)
音楽監督:三木黄太
主演のラリー・シモン(1889~1928)は当時の映画界ではトップの人気を誇ったスーパースターのひとり。キョーレツなドタバタ喜劇がウリで、あまりの過激さに惚れ込んだ文豪・谷崎潤一郎(当時は映画会社・大正活映の撮影所長)が友人の稲垣足穗に薦めたところ、ハマりまくった足穗は六編ものエッセイを書いた。本作では、後に「ローレル&ハーディ」という喜劇コンビで世界的な人気者となるオリバー・ハーディが'ベイブ'の芸名で敵役を演じている。
また、ベイブ・ハーディの助手役ノーマン・タウログ(本作の共同監督でもある)は後にジェリー・ルイスやエルビス・プレスリーの主演作でヒット・メイカーとなる監督の若き日の姿!ノン・クレジットではあるが部分スタントを受け持った人物は故・淀長センセイが最も好きだったというトーキー初期のアクション・スター、リチャード・タルマッヂ等々、映画史を支えた人物たちのド根性がタップリ詰まった傑作。
「夢の犬にて」 Un chien Andalou (フランス映画)
初公開時のタイトル「アンダルシアの犬」
サルヴァドール・ダリ(1928年)
音楽監督・再構成:石川浩司
20世紀最大の天才芸術家ダリの言葉によれば、本作は新聞のヘッドラインをスクラップ・ブック風にコラージュするように、様々なイメージ(悪夢や衝動)を貼り付けた羅列的作品で、シークエンス毎の関係性はまったくないとの事。『瞳を切り裂け、もっと欲望が見える』なるメッセージを具現化して・・・ゲ~!!だが、映画史でシュール・レアリスムを語るうえでの大代表作!ブルトン、ピカビア、コクトー、ピカソ、デュシャンが華々しく活躍した時代のパリ前衛芸術でも最も賛否両論となった衝撃の問題作。このテイストがサッパリわからない人には拷問かもしれない映像のザッピング!1950年代にアメリカのソフト販売会社サンダーバード(現在は廃業)が家庭用16mmフィルムとして本作を発売する際、安直にBGMでワーグナーとアルゼンチン・タンゴをつけたところ、ワーグナーに心酔するブニュエルが感激して即席BGMが監督公認となってしまった!なんていかにも支離滅裂な本作らしいエピソードもある。今回はダリをも脅かす21世紀の鬼才・石川浩司さんが戦慄(旋律)の伝導者となる・・・
「整形夫婦」Mighty like a moose(アメリカ映画)日本未公開
主演:チャーリー・チェイス
ハル・ローチ・スタジオ=パテ・エクスチェンジ作品(1926年)
音楽監督:高良久美子、弁士:石川浩司、台本作成:新野敏也
主演のチャーリー・チェイス(1983~1940)はヴォードヴィル出身で映画黎明期の1910年代前半に銀幕デビューしたコメディアン。本作はサイレント映画ながらも、ヴォードヴィルで鍛えたリズム感が随所に溢れているスゴイ作品。監督のレオ・マッケリーはチャーリー・チェイスとの制作(コラボレーション)を最も好んでおり、その相性ピッタリな遊び心は、足元だけで微妙な感情を表現する等、演出とパントマイムが絶妙なハーモニーを奏でている事が確認できる。チェイスは、サイレント映画の時代終焉とともに多くの道化師(コメディアン)がことごとく忘れ去られていく中でも、音の出る映画=トーキー時代から歌と踊りでいよいよ本領を発揮!となった稀有なスターでもあった。しかし、大酒飲みのために46歳で他界し、今日的な評価に到らなかったのが残念!チェイスの死はマッケリー監督を大いに落胆させたという。その後、マッケリー監督は「我輩はカモである」「我が道を往く」「めぐり逢い」「人生は四十二から」「新婚道中記」などの大ヒットを生み出すが、チェイスとのコンビ時代の想いが創作の基本にあったらしい。製作のハル・ローチは「ちびっ子ギャング」の生みの親で、マッケリーとチェイスも監修として「ちびっ子ギャング」に参画していた事から、本作冒頭には当時人気絶頂だった「ちびっ子ギャング」がゲスト出演している。どこを切っても魅力タップリの軽演劇をお楽しみ下さい!
(全作品24駒/秒映写)