「幸福」 СЧАСТЪЕ
 
監督・脚本:アレクサンドル・メドヴェトキン
撮影:グレープ・トロヤンスキー
出演:ピョートル・ジノヴィエフ、エレ−ナ・エゴロワ
製作:ソユエイキノ(映画列車) 1934年ソビエト(ロシア)作品
弁士:知久寿焼 台本:藤本ヨシカズ セッション・リーダー:谷川賢作
35mmプリント アテネ・フランセ文化センター所有
監督のアレクサンドル・メドヴェトキンと本作は、ソビエト映画史の中からもその存在自体が永い年月忘れら去られていた。この稀有な古典が発掘されたきっかけは、フランスの映像詩人クリス・マルケルによるオマージュ「アレクサンドルの墓」(1993)によって描かれたメドヴェトキン監督の実像が、各国の映画祭で相当なインパクトを与えた事からである。
メドヴェトキン監督はスターリン政権下のソビエトで文化啓蒙の責務を担い、共和国内を網羅する鉄道利用に着目、客車を改造して撮影機材、現像所、上映設備を整えた「映画列車」で地域の情報格差をなくす活動を行っていた人物。このプロパガンダ運動は1932年より開始され、本作はその記念すべき第1作であり、そしてソビエト最後のサイレント映画というイワクあり気な作品。
完成直後からクレムリンの検閲でかなりの修正が加えられたらしいが、現存するこのフィルムにも、ところどころに階級闘争やイデオロギーをギャグとしたアブナイ系の表現がちりばめられている。クレショフ「ボルシェヴィキの国におけるウェスト氏の異常な冒険」やプドフキン「チェス狂」が製作された当時はトルツキー存命中で表現の制約もまだヌルかったのだが、本作はかなりキケンなギャグが大胆にでてくる点で、世紀の大独裁者スターリンの時代背景を考慮すると信じられない完成度だ。また、ドイツ表現主義の影響も垣間見える不均衡な美術、ロシア領内で20世紀初頭に活躍していたであろうグロテスクな道化師たちの狂想劇等、ポッカリと抜け落ちていたソビエト映画史の一部を埋めるには余りあるナゾの情報量!当に古典映画のオーパーツ!祖国を追われたタルコフスキーも成仏できない内容だ!ペレストロイカを経て日本に輸入されたキテレツ喜劇では、ロゲオルギー・ダネリヤ監督の「不思議惑星キン・ザ・ザ」(1986)もロシア人とスラブ人、少数民族の確執や共産主義への疑問をケッタイなスペ−ス・ファンタジーで大笑いさせてくれた。が、「キン・ザ・ザ」は疲弊しつつあるソビエト経済の血清みたいな喜劇。この「幸福」はドイツ第三帝国のバルバロッサ作戦、東西冷戦、ペレストロイカを乗り越えて、タイトルそのものが我々にナゾかけをしてくるアレクサンドルの墓碑銘だ!
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