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喜劇辞典 か行

【仮装】

女装、変装、被り物、特殊メイク、擬態など、コメディアンのギミックのひとつ。「形態模写」という芸もある。
形態模写は、雰囲気や格好でのモノマネ芸、主に著名人などのキャラクター性を真似るもの。もともと「声態模写」という話芸がTV誕生以前の舞台やラジオで確立されていた。著名人の声色、イントネーション、特徴的な喋り癖を真似る話術で、この「声態模写」の命名者にして伝説的なスーパースターは古川ロッパ。往時の人気タレント・徳川夢声が急病で欠席したラジオのナマ放送をロッパが本人になりきって代演していたと、中原弓彦氏は『定本 日本の喜劇人』で紹介している。最近ではアニメ『ルパン三世』の栗田貫一が、その名のとおり'山田康雄'を一本貫いて好演しているのは声態模写の王道であろう。
女装の場合は、一般的に演じる者がオトコと特定できる場合にギャグが成立するが、サイレント映画の時代ではチャーリー・チャップリン、ロスコー・アーバックルといった男優がオンナ(女優)としての役割を演じた笑いもある。代表的作品はチャップリン「つらあて」、アーバックル「Miss Fatty's seaside lovers」など。さらに「おばあちゃん役者」という、男優の演じるキャラクターも喜劇の常套手段として確立されたものがある。曾我廼家十吾、堺駿二、石井均、博多淡海、ばってん荒川、佐山俊二やTV時代の寵児・青島幸男『いじわるばあさん』は、絶対にジジィにならない方々だろう。いずれの場合もオンナ男優は歌舞伎の女形に通底するもの。尚、本来の女装をギャグとした代表作はビリー・ワイルダー監督『お熱いのがお好き』、ダスティン・ホフマン主演『トッツィー』など。
変装の名人芸はピーター・セラーズ主演『博士の異常な愛情』『天才悪魔フー・マンチュー』、マイク・マイヤーズ主演『オースティン・パワーズ』が有名。擬態(カモフラージュ)ではチャップリン『担え銃』の樹木が昆虫顔負けの擬態ぶり !? バスター・キートンの『即席百人芸』ではオーケストラ団員、観客、チンパンジーを全て演じ分けるといった至芸を見る事ができる。特殊メイクは、ギャグというよりは造型的な驚異がウリとなるが、役者の個性によっては『ナッティ・プロフェッサー』のエディ・マーフィーのような成功例も挙げられよう。(A)

【ギャグ】(gag:英語)

映画や演劇などで、観客を笑わせるために、筋と関係なく挿入されるセリフや動作のこと。コメディの「基本単位」ともいえるだろう。"gag"という英単語には「さるぐつわをはめる」「言論の自由を抑圧する」という意味もあるが語源を辿ればそこに行き着くのだろうか? 猛暑の夏に暑苦しいギャグを、極寒の冬に寒いギャグを連発し、ついにさるぐつわを嵌められてしまった無名の先人に今さらながら敬意を表したい。合掌。右から読んでも左から読んでも"gag"。(F)

【空想】

夢、誇張、飛躍といったメンタルな発想、またはSFのような着想をギャグとするもの。
喜劇の根底には必要不可欠な要素であり、オチとしても用いる。代表例はバスター・キートン『探偵学入門』、ソビエト連邦の文化遺産『不思議惑星キン・ザ・ザ』がある。(A)

【クラウン(道化師)】(clown:英語)

滑稽な身振りや言葉で人を笑わせる芸人。サーカスやミュージックホール、劇場、映画、テレビなどが活躍の場。起源を辿れば中世ヨーロッパの旅芸人、さらには宮廷愚者(王や貴族に召し抱えられた白痴・狂人・不具者)にも遡ることができる。日本では一般に「ピエロ」として認知されているがこれは間違いである(詳しくはピエロの項を参照)。チャールズ・チャップリン、バスター・キートン、ローレル&ハーディなど、サイレント・コメディ映画で活躍したスターたちも、広義のクラウンに含めていいだろう。(F)

【警官隊】

サイレント映画時代に卑近な権力の象徴として扱われて以降、今日までの映画では欠かす事のできないサブ・キャラクター。1900年代初頭のフランス・イタリア映画界でジャン・デュラン、ロメオ・ボゼッティという作家によって発案された道化役。高圧的で傲慢ながらマヌケで機動力に劣るという設定が笑いを呼ぶもの。このキャラクター設定を改良し、より強大で無能化したものが1910年代のアメリカ映画界でマック・セネットによる功績、その演出法を一部改良したのがチャーリー・チャップリンとなる。『ルパン三世』の銭形警部らはその嫡流。『ブルース・ブラザース』『ブルース・ブラザース2000』では警官隊とは別に、ネオ・ナチやロシアン・マフィアもその異形亜種として登場するが、いずれもキャラクター設定の条件は権力に比例する無能ぶりである。使用例は追っかけの項を御参照あれ。(A)

【コメディア・デ・ラルテ】(commedia dell'arte:伊語)

ルネッサンス期にイタリアで生まれ、17~18世紀頃までにヨーロッパで隆勢を極めた仮面劇。
俳優がキャラクター性を持った仮面と衣装を纏い、即興のセリフを吐き物語を演じるもの。その当時の演技者たちは修練を積んだ体技と文学的教養が不可欠だったという。今日的には、劇中の登場人物の扮装から、派手な道化師のステージと同義語とも捉えられている。元来は、言語体系が複雑で学校教育の普及率が低い時代のヨーロッパにおいて、方言や差別的要素をネタに演じていた舞台が正統喜劇として存在、対する「コメディア・デ・ラルテ」は街角や広場で大衆芸能として吟遊詩人的な話題を呼んでいたらしい。この天候に脅かされる街頭パフォーマンスもやがては劇場を持つに到り、イタリアを発案・発祥とする「額縁演劇」(今日的なステージの概念の原型)がヨーロッパ中の人気となったという。
「コメディア・デ・ラルテ」は直訳すると「芸術的喜劇」とでもいうのであろうか・・・「dell'arte」という単語には「職業的」「技術的」といった意味が濃いとの事 !? 映画創生期のフランス・イタリア喜劇の多くが舞台やサーカス出身の道化師で占められていた事から、ギラギラ・ハデハデ系のコメディアンが出演する作品を解説する場合に用いられる単語となった。語意どおりの代表作ならばジョルジュ・メリエスの映画が挙げられるのだが、現在の用語使用例ではほとんど死語といってもよいかもしれない。(A)

【コメディアン】(comedian:英語)
【コメディエンヌ】(comedienne:仏語/英語)

喜劇を専門とする男優がコメディアン、喜劇女優がコメディエンヌ。
映画界最初の主演コメディアンはアンドレ・デード(フランス~イタリア)、初の国際的スター・コメディアンはマックス・ランデール(フランス)、最初のコメディエンヌはメーベル・ノーマンド(アメリカ)である。また、コミック・アクター(アクトレス)という呼称は、役柄で喜劇を演じるスターを示す。例えていうならば、アーノルド・シュワルツェネガーはコミック・アクターでレスリー・ニールセンはコメディアン、ウーピ-・ゴールドバーグはコメディエンヌでもユマ・サーマンはコミック・アクトレス、という分類。日本の場合は自らコメディアン(またはコメディエンヌ、喜劇俳優、喜劇役者)と名乗るもシリアス路線を演じる俳優(いかりや長介、伊東四朗、泉ピン子など)も多いので、この分類は御本人の肩書きに頼るしかない・・・。(A)

【コント】(conte:仏語)

笑いを狙った寸劇。
落語や漫才などの話術主体の芸とはちがって、身体を駆使した演技をおこなう。予算を掛けた大がかりなセットでおこなうコントから、何もないシンプルな舞台でマイムやジェスチャーを駆使しておこなうコントまで形態はさまざま。
日本のコント史を遡ると、戦前戦中の軽演劇時代には、すでに「コント」「スケッチ」「寸劇」などの名称で呼ばれていたようだ。1960年代半ばには、てんぷくトリオ、トリオ・ザ・パンチ、ナンセンストリオなどが人気を集め、「トリオ・コント」ブームを現出。その先駆けは八波むと志、由利徹、南利明による脱線トリオである。そしてザ・ピーナッツとクレイジーキャッツの『シャボン玉ホリデー』、ボケの坂上二郎とツッコミの欽ちゃんが舞台上ところ狭しと動き回る「コント55号」、入念なリハーサルに裏付けられたザ・ドリフターズ『8時だよ!全員集合』、シュールなコントで一世風靡した『ダウンタウンのごっつええ感じ』などなど。最近ではSMAPやハロプロなど、お笑いのプロではないタレントがメインで駆り出されるコントも多い。
なお英語では通常「スケッチ」(sketch)と呼ばれている。
ちなみに「コント」はもともとフランス語で、諷刺と機知に富んだ軽妙な短編をさした。誰のコントが好きかと問われてギイ・ド・モーパッサンの名を挙げることは文学史的に正しい対応だといえよう。(F)