マック・セネットは「娯楽映画の発明者」「喜劇の帝王」と呼ばれる映画史上で最も偉大な人物のひとり。この契約書は1917年にキーストン撮影所の所長だったセネットがフェリス・ハートマンと監督契約を交わしたもの。ハートマンは19世紀末に演劇人としてデビュー、たちまち流行作家となって、1912年には自らの歌劇団（バーレスク）を率いて世界ツアーを敢行し、横浜、浅草でも上演していた国際的な劇作家。このセネットとの契約を機に、当時の大スターにして喜劇作家であるロスコー・アーバックル（バスター・キートンの師匠）や珍優ベン・ターピンの映画を監督、1920年代には娯楽映画のヒット・メーカーとなって数多くのアイドル女優なども生み出した。契約書は5枚綴りで4枚目と5枚目にそれぞれセネットとハートマン、立会人としてセネットのマネージャー、ジョージ・W・スタウトが署名しており、当時の報酬額や支払い条件を窺い知る事ができる。また、この契約書が作られた1917年は第一次世界大戦やロシア革命によりアメリカ映画が世界的人気を博すも、キーストン撮影所は経営母体の業績不振により解散となった故、色々な意味で歴史の証拠を語る貴重な資料と考えられる。個人的な感想では、セネットほど筆遣いの粗い魑魅魍魎的にメチャメチャな人もなく、この契約書のように判読可能で丁寧な筆致は特に貴重かもしれない。

メーベル・ノーマンドは映画史上初のコメディエンヌ、そして伝説の大女優。かのチャップリン、ロスコー・アーバックル（バスター・キートンの師匠）の先輩として、映画黎明期に陽気な演技で世界中を魅了したアイドルであった。しかし人気も絶頂にさしかかった頃、二度にも渉る殺人事件の重要参考人として表舞台から抹殺され、人知れず世を去った悲劇的人物でもあった。本品は手焼きの印画紙で、裏には1924年5月と鉛筆書きがある。
デジタル・カメラ全盛の現代に於いて、大判カメラで撮影された銀塩写真の奥深さ、ハリウッドの照明技術、女性を撮影する際の配慮など、写真史のうえでも極めて貴重な1枚といえよう。

ハロルド・ロイドは無声映画時代からトーキー初期に絶大な人気を誇ったコメディアンで、アカデミー賞創設メンバーのひとりでもある。本品は1932年にパラマウント社の「ロイドの活動狂」宣伝用写真にサインされている。ロイドは右手の親指、人差し指、中指を撮影中の事故で失っているために人前ではサインをせず、大変に貴重な１枚と考えられよう。これはオーストリアの貴族が保管していたもの。

今も昔もブロマイドはキャラクター商品の代表格で、本品はチャップリンが国際的な人気を確立した1915年のもの。これにはオリジナル（ネガより1枚ずつ現像した印画紙）と量産品（映画会社などが作成したコロタイプ印刷、左下にwitzelの焼き込みサイン入り）が存在する。本品は後者でチャップリン自らがファンレター等の返信用に大量注文したと考えられ、現在も時折、映画関係のオークションに同一のブロマイドが現われる。量産品とはいえコロタイプ印刷は現代の写真製版と違い、階調はオリジナルとほぼ同等に仕上がっている。当時のチャップリンはこのポートレートがお気に入りだったようで、レターヘッドなどの右上にも印刷していた。因みに若い頃のサインはファースト･ネームをChasと記し、CharlesまたはCharlie と書くのは後年に到ってからで、この頃のチャップリンはスタジオの備品にもChasと略した名前を使用していた。参考までに付記しておくと、当時のコメディアンは劇中で仰々しい髭やヘンテコな衣装を着用していても、ポートレートではこのようにお見合い写真を彷彿とさせる美しい素顔を好んで採用していた。

ダン・エイクロイドは「ブルース・ブラザース」にて弟のエルウッド役や「ゴースト・バスターズ」のレイモンド・スタンツ博士役、そして両作品の脚本担当としても有名なアメリカを代表するコメディアン、脚本家、シンガー・ソングライター。このスチールはチャップリンの伝記映画「チャーリー」にて'キーストン撮影所のマック・セネット監督'を演じているもの。本品はロビー・カードか劇場ディスプレイ用の写真を裁断したものに太いフェルト・ペンでサインしている。